まさに“生き地獄”――。入国在留管理庁(入管)の外国人収容施設では、先の見えない長期収容と職員による虐待で精神を病んだり自殺を試みる外国人が続出しています。2004年から被収容者の支援活動を続けている織田朝日さん(東京都在住)は、入管施設のあまりに酷い実態を多くの人に伝えようと、4コマ漫画にして発信しています。
この17年間、入管に通い続け、被収容者と面会して彼女・彼らの悲痛な声に耳を傾けてきた織田さん。その声を何とか多くの人に伝えようと考えたのが4コマ漫画でした。今年2月、これまで描いてきた100本以上の漫画が、単行本(『ある日の入管』扶桑社)として刊行されました。
密室で虐待横行
「アクリル板の向こうは〝この世の地獄〟」というタイトルの漫画があります。
入管の面会室で被収容者と面会者を隔てているアクリル板。ある日、アクリル板の向こうに姿を現した女性は両腕が傷だらけでした。二度目の仮放免(一時的な収容停止)申請が却下され、絶望して鉛筆削りの刃で体中を切ったといいます。「首は固くて切れなかった」――自殺未遂でした。
「話を聞くだけで、すぐさま助けてあげられないのが一番辛い。アクリル板を取り払って出してあげられたら、といつも思う」と織田さんは言います。
被収容者の心を追い詰めているのは、いつまで続くか分からない拘禁です。特に東京五輪の開催が決まってからは、仮放免が認められることが少なくなり、収容期間が長期化しています。
2020年4月、東京入管(東京都港区)に収容されている女性たちが長期収容に抗議し、非暴力不服従の行動に立ち上がりました。
すると、盾を持った10人以上の男性職員が突入してきて彼女たちの腕をひねり上げ、床や壁に体ごと打ち付けて「制圧」。最後まで抵抗を続けた女性たちは、男性職員らに担ぎ上げられて、窓もなく床に穴が開いているだけのむき出しのトイレしかない「懲罰房」と呼ばれる一人部屋に放り込まれました。
全国の入管では、職員による暴行やハラスメントなどの虐待が横行しています。体調不良を訴えても病院に行けることはまれで、「(入管から)出てから自分で行け」と暴言を吐く職員もいるといいます。
「ここに収容されている外国人は『人間』として扱われていない。入管は、日本人が見ていないと思って、密室の中で好き放題やっているのです」(織田さん)
国連も是正勧告
昨年9月には、国連人権理事会の作業部会が「(入管の長期収容は)恣意的拘禁を禁じた国際人権法に違反している」として、日本政府に是正を求めました。
しかし日本政府は、国外退去命令に従わない被収容者に非があるという姿勢を改めようとしていません。今国会に提出した入管法改正案では、罰則を新設するなど締め付けをさらに強化しようとしています。
「日本政府は、とにかくビザ(滞留資格)のない人を帰すことしか考えていない」と憤る織田さん。「入管に収容されている人のほとんどは、戦争や迫害から逃れるために日本に来た難民など、帰るに帰れない事情を抱えた人たち。難民を、迫害が予想される地域に追い返すのは国際法違反です」
日本は難民条約に加盟していますが、難民認定率はわずか0・4%(19年)。軒並み10%以上の欧米各国と比べて極端に低く、先進国では断トツ最下位です。
「日本もイラク戦争を支持したり難民を生み出すことに加担している。難民を受け入れる責任があるはず」――織田さんはこう強調します。
人間として扱え
織田さんが支援活動を始めた17年前は、入管問題がマスコミで報じられることはほとんどありませんでした。それが徐々に報じられるようになり、被収容者との面会や抗議のために入管を訪れる日本人も増えてきました。すると入管職員の対応も少しずつ変わってきたといいます。
「あきらめずに発信を続けてきてよかった。これは日本政府がやっていることだから、日本人が変えていかないといけない問題なんですよね。まして今は外国人の手を借りなければ成り立たない時代。こんなことをしても日本の評価を下げるだけです」
最後に織田さんはこう力を込めました。「相手も人間なのだから、もっと丁寧に対応しようよ、と言いたいですね」
『平和新聞』4月5日号掲載
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